「心気症」という病気があります。
これは、健康体でも時々感じるちょっとした体の不調(咳が出る、胃もたれする、動悸が激しいなど)に過敏になり、「自分は重篤な病気ではないか」という考えにとらわれるものです。
その考えは、病院で検査を受けて「異常なし」の数値を見ても、「問題ありません」という医師の言葉を聞いても、解消されません。
次から次へと病院を渡り歩いて検査を受けたり(ドクターショッピング)、家族や周囲の人に「自分は病気なのではないか」「自分は病気であるのに違いない」など執拗に訴えたりすることもあります。
心気症の場合も、
確証バイアスによる
ディスカウント(値引き)が生じていると考えられます。
すなわち、咳が出ている・胃もたれしている・動悸が激しいなど、「自分は病気なのではないか」という考えを支持する事柄は、非常に敏感に感知する一方で、咳が出ていない・胃もたれしていない・鼓動がゆっくり規則正しいなど、「自分は病気」という考えを支持しない事柄は、意識されることがありません。
また、病気ではないことを示す検査結果や医師の診断も、受け入れられません。
しかし、心気症の方に、「確証バイアスがかかっていますね。客観的に見てください」と指摘し助言しても、多くの場合、効果はありません。その指摘や助言も、確証バイアスではじかれてしまうからです。
「気にしすぎ!!」と怒っても、同じです。
指摘や助言、叱責が、効果を持たないのは、心気症に限らず、確証バイアスが強くかかっているほとんど全ての方に言えることでしょう。
また、心気症は、「不安性障害(不安神経症)」に分類される心の病気です。
どういうことかというと、心の中にある不安が大きな原因になっている病気ということです。
病気そのものへの不安、死の不安、将来の不安、人間関係の不安など、その原因は人それぞれです。
治すためには、心に大きく占めている不安を和らげることが必要です。
指摘・助言・叱責などは、患者さんの孤独感を強め、かえって不安を強めることになってしまい、症状を悪化させてしまいます。
不安を和らげるために、まずは、しっかりと患者さんの訴えを聴いてあげてください。
しかし、「自分は病気なのではないか」という患者さんの考えを強化するような受け答えは避けてください。「そう。病気なのですね。大変なことですね」、「もっと大きな病院でちゃんと調べてもらいましょうね」などは、よくありません。
「病気なのではないかと思って、とても不安なのですね」と気持ちに寄り添う言葉や、「どんな時に、病気かなと思うのですか?」と不安な気持ちを話しやすくなる言葉を、かけてあげてください。
「誰もわかってくれない」という孤独感が和らぎ、不安が和らいでくると、確証バイアスという説明にも耳を傾けてくれるようになります。
心気症の患者さんだけではなく、確証バイアスが強くかかっている人への対応として、こちらからの一方的な指摘・助言・叱責をするのではなく、まずは、その方の気持ちを理解しようとこちらから寄り添うことが、大切です。